「IT業界に入ろうと思ってるけど、エンジニアやめとけって言うよね」──ネット検索をすれば、この言葉は無数にヒットする。IT系コミュニティやX(旧Twitter)では、現役エンジニアが疲弊した様子で「この仕事、本当におすすめできない」と発信する投稿が日常的に流れる。
だが、その言説の本当の理由を正確に把握している人は少ない。感情論で不満を吐くだけの投稿も多く、読み手は「大変そうな業界」という漠然とした印象だけを受け取って終わる。
本記事では、厚生労働省・経済産業省・民間調査機関のデータを基に、「エンジニアやめとけ」と言わしめる3つの構造的要因を解剖する。そして後半では、その構造的問題を個人レベルで回避するための実戦技術──求人票の危険信号、面接での逆質問、ホワイト企業の定量指標──を具体的に提示する。
結論を先に言えば、「やめとけ」と言われる要因の多くは個人の努力不足ではなく、日本IT業界の構造的な問題である。しかし、3つの盾(識別技術・逆質問・ホワイト指標)を備えれば、同じ業界の中でも、高い満足度と報酬を享受できる環境を選び取れる。現に、平均勤続年数が20年を超えるBIPROGY(旧日本ユニシス)や、平均年収が1,300万円を超える野村総合研究所のように、長く働けて待遇も高い優良企業は確実に存在する。
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データで見る「エンジニアやめとけ」の実態──不満の源泉
まず、客観データで「やめとけ」の内訳を分解する。感情論ではなく、業界全体で実際に何が起きているのかを把握することが出発点だ。
2025年度の転職理由ランキング
転職サービスdodaの転職理由ランキング(2026年発表・2025年度集計)によれば、転職を志す最大の理由は「給与が低い・昇給が見込めない」で36.6%に達している。2位は「労働時間に不満」26.3%、3位は「個人の成果で評価されない」22.8%と続く。
| 順位 | 転職理由 | 割合 |
|---|---|---|
| 1位 | 給与が低い・昇給が見込めない | 36.6% |
| 2位 | 労働時間に不満 | 26.3% |
| 3位 | 個人の成果で評価されない | 22.8% |
| 4位 | 尊敬できる人がいない | 20.9% |
| 5位 | 社内の雰囲気が悪い | 20.7% |
※出典:doda「転職理由ランキング」(2026年発表、2025年度集計・複数回答)。この調査はIT職に限定したものではなく全職種を対象とした集計である点に留意。エンジニアの転職動機を考えるうえでの参考として引用している。
特に注目すべきは、3位の「個人の成果で評価されない」だ。人的資本経営の情報開示が広がる中で、企業側が「成果主義」を標榜し始めたものの、実態としての評価基準が曖昧だったり年功序列の慣習が残っていたりすることに、働き手が不信感を抱いている構図がうかがえる。
年代別に質が変わる「やめとけ」
興味深いのは、同じdodaの調査で、抱える不満が年代によって質的に異なる点だ。
20代では「労働時間に不満」が44.6%で1位。リモートワークや柔軟な働き方が標準となった世代にとって、レガシーな体制(深夜残業や休日対応)が残る環境は「耐え難いもの」として認識されやすい。
30代では「尊敬できる人がいない」(23.0%)が上位に。マネジメント層への不信や人間関係のストレスが転職の強力なトリガーとなる。
40代では「社内の雰囲気が悪い」(32.1%)が上位に浮上し、組織風土そのものへの失望が顕著になる。年代が上がるほど、給与だけでなく組織や人間関係の問題が転職理由として重みを増していく。
メンタル不調が全産業で最も多い業界という現実
「エンジニアやめとけ」と言われる最も深刻な理由の一つが、精神的な摩耗である。ここで最も注目すべきデータを提示したい。
厚生労働省の「労働安全衛生調査(実態調査)」の令和5年版によれば、情報通信業はメンタルヘルス不調による休業・退職が他業界より突出して多い。メンタル不調で連続1ヶ月以上休業した労働者がいた事業所の割合は28.9%、退職した労働者がいた事業所の割合は14.7%に達し、いずれも産業別で最も高い水準にある(全産業平均はそれぞれ10.4%、6.4%)。しかもこの数字は単年の異常値ではなく、退職者がいた事業所の割合は令和3年調査時点の11.7%から上昇しており、状況が容易には改善していないことがうかがえる。
なお、これらの割合は「その業界の事業所のうち該当者がいた事業所の比率(事業所ベース)」であり、労働者一人ひとりが休職・退職する確率そのものではない点は補足しておきたい。それでも、産業間で比較したときに情報通信業が最上位に位置し続けているという事実は重い。
やや古いデータになるが、IT系メディア(日経xTECH/ITpro)が2007年にエンジニア627名に対して行ったアンケートでは、61.4%が「自分はこころの病だと感じたことがある」、28.2%が「医師からこころの病と診断されたことがある」と回答している。約20年前の調査であり現在の実態とは異なる可能性があるが、エンジニアのメンタル負荷が古くから指摘されてきたことの一例として挙げておく。
近年はAI普及も新たなストレス源として語られる。海外の調査(Upworkが2025年に発表した「Future of Work」レポート、対象は主に米国の従業員)では、AIツールで生産性が上がったとする一方、AIを高度に活用する層の88%がバーンアウト(燃え尽き)を感じていると報告されている。これは米国を中心とした調査であり日本の実態そのものではないが、技術進化がキャッチアップのプレッシャーを生む構図は日本にも通じる論点だ。
「やめとけ」は感情論だけではなく、構造的なデータにも裏づけられている。次章以降、その構造を解剖していく。
「多重下請け構造」を解剖する
「エンジニアやめとけ」と言わしめる要因の中核にあるのが、日本特有の多重下請け構造だ。経済産業省の資料(IT産業における下請の現状・課題に関する報告、2015年)でも、IT開発において元請と下請の間に賃金・生産性の格差が存在し、下位の下請ほど利幅が圧迫される構造が指摘されている。二次請け・三次請け・四次請け以降へと続くピラミッド型構造は、長年にわたり大きな改善が見られていない。
この構造こそが、低賃金、スキルアップの阻害、そして過酷な労働環境を再生産するメカニズムだ。
多重下請けが生む4つの構造的影響
① 中間マージンの累積
商流が一つ深くなるごとに、仲介企業が利益を抜き取る。実際に作業を行う末端のエンジニアに支払われる報酬は低くなりやすい。三次請け・四次請けといった下流工程に位置する企業では、どれだけエンジニアが努力して高度な成果物を出しても、発注単価そのものが低いため、昇給の見込みが構造的に狭まる。経産省の資料でも、下請企業の労働生産性が元請を下回る傾向が示されている。
② スキルの固定化とキャリアの停滞
下請け企業のエンジニアに回ってくる仕事は、元請けが設計した仕様に基づく単純なコーディングやテスト、24時間365日の保守・運用といった「下流工程」が中心になりがちだ。要件定義や顧客交渉といった市場価値の高い「上流工程」の経験を積む機会が失われ、年齢だけを重ねて技術が陳腐化するリスクが高い。
場合によっては、ITスキルとは関係の薄い業務にアサインされる「偽装IT案件」と呼ばれるケースも指摘されている。
③ 常駐先での孤立と帰属意識の欠如
客先常駐(SES)では、自社の社員が自分一人という状況が珍しくない。技術的な問題に直面しても相談できる上司や同僚が身近におらず、常駐先の正社員(プロパー)との見えない壁を感じながら働くことになる。この孤立はエンジニアの精神衛生に悪影響を及ぼしやすい。
④ 法的な「偽装請負」のリスク
SES契約は本来、指揮命令権が自社にあるはずだが、実態としては常駐先の担当者から直接指示を受ける「偽装請負」が問題として指摘されてきた。厚生労働省のガイドラインでも、実態が派遣であるのに請負契約を装う偽装請負は労働者派遣法上問題となると明確にされている。これにより、自社の労務管理が機能せず、常駐先の都合で過度な残業や休日出勤につながる懸念がある。
構造整理
| 構造的要因 | 具体的な弊害 | エンジニアへの影響 |
|---|---|---|
| 中間マージン | 階層が深くなるほど単価が低下 | 低賃金、昇給停止 |
| 下流工程の押し付け | テスト・保守・運用業務の固定化 | スキルの陳腐化、キャリア詰まり |
| 1人常駐 | サポート体制の欠如、孤立 | 精神的ストレス、技術的停滞 |
| 指揮命令系統の混同 | 偽装請負(常駐先からの直接指示) | 過重労働、法的リスクの波及 |
「やめとけ」の中核にあるのは、個人では解決しにくい構造問題だ。一人の努力や気合で下請け構造そのものを変えることはできない。だからこそ、構造を理解して、その構造から脱出するのが有効な解になる。なお、この多重下請け構造は「SIerはやめとけ」という言説の核心でもある。SIerとWeb系開発で働き方やキャリアがどう違うのかはSIerはやめとけ?構造から理解するSIerとWeb系の違いで整理しているので、業態選びで迷うなら併せて読んでほしい。
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求人票の「危険信号」を読み解く技術
構造問題を避けるための第一関門は、求人票の段階で実態を読み取ることだ。求人票は限られた文字数で書かれるため、記載の粒度に企業ごとの差が出る。ここでは注意して読みたい5つの危険信号を解説する。
危険信号① 給与表記の内訳
「月給30万円以上(45時間分の固定残業代を含む)」
このような表記は、残業が常態化していることを前提とした「定額働かせ放題」に近い設計であることがある。45時間分が既に給与に含まれているということは、それ以下の残業には別途手当が出ない仕組みであり、企業側が45時間程度の残業を「当然」と見ている可能性を示す。
「未経験でも月収50万円以上」
不自然な高給は、ITスキルとは無関係な過酷な労働(訪問販売、コールセンター等)が裏にある可能性を疑うべきだ。IT未経験者にいきなり月収50万円以上を提示する合理的理由は、多くの場合見当たらない。
危険信号② 休日数の記載
- 年間休日120日以上がIT業界のホワイトラインの目安
- 「100日以下」「月6日以上」といった記載は、土日祝の休みが保証されない可能性がある
年間休日の数字は、企業の姿勢を比較的よく物語る。125日以上を提示する企業は、有給休暇とは別に「会社指定の休日」を多めに確保している傾向があり、労働環境への投資意識が高いと見られる。
危険信号③ 精神論ワードの乱用
- 「アットホームな職場」「社員は家族」「熱意重視」
これらは、業務の専門性や制度の不備を感情で埋めようとする組織風土の裏返しであることがある。健全な組織は「家族的」であることより「プロフェッショナル同士の関係」を重視する傾向がある。
危険信号④ 具体スキル要件の欠如
- 「経験不問」「やる気重視」のみで、具体的な技術・フレームワーク・環境が記載されていない
真っ当な開発組織は、求めるスキルセット(Python/Java/TypeScript等)や使用ツール(GitHub/AWS/Jira等)を明確に記載することが多い。これらが空欄、あるいは抽象的な表現に終始している求人は、実際の業務がIT業務でない可能性も念頭に置きたい。
危険信号⑤ 写真のパターン
求人の掲載写真にも企業文化が表れることがある。
- 集合写真で「キラキラ笑顔」「飲み会風景」ばかり
- 実際の開発風景、設備、技術的な環境写真が全くない
健全な開発組織は、オフィスのPC環境、勉強会の様子、技術カンファレンスへの参加実績などを写真で紹介することが多い。社員の「笑顔」ばかりが前面に出ている求人は、実務内容を語りにくい企業である可能性も考えられる。
客観データで補完する
求人票の定性的な判断を、以下の定量指標で補完すると精度が上がる。
| 分析項目 | ブラックの兆候 | ホワイトの兆候 |
|---|---|---|
| 離職率 | 3年以内離職率30%超 | 一桁台 |
| 平均勤続年数 | 3年未満 | 10年以上 |
| 商流(SES) | 3次請け以降がメイン | エンド直(元請け)比率が高い |
| 待機手当 | 基本給カット(欠勤扱い) | 100%支給 |
| 案件選択権 | 会社が配属先を決める | 案件選択制 |
求人票は企業の自己申告である。しかし、危険信号を読み解く目を持てば、この段階で見極めの精度は大きく上がる。求人票だけでなく、企業サイトや口コミも含めて多角的にブラック企業を見抜く手順はブラックIT企業の見抜き方チェックリストにまとめてあるので、実際に応募先を絞り込む段階で活用してほしい。
面接で使える「見抜く逆質問」4選
求人票を通過した企業でも、面接段階でさらに精査する必要がある。面接は企業が応募者を評価する場であると同時に、応募者が企業を診断する「診察室」でもあるからだ。以下の4つの逆質問は、企業の本質を炙り出す有効な武器になる。
逆質問① 案件の透明性
「現在稼働している案件の商流の内訳を教えてください。元請けと二次請け以下の比率はどうなっていますか?」
- 良い回答の例:具体的な比率(例:元請け65%、二次請け25%、その他10%)を示し、主要クライアント名も開示
- 悪い回答の例:「案件によります」「詳細はお答えできません」で終わる
この質問は、企業が多重下請けの底辺に位置していないかを直接確認するものだ。商流の透明性を答えられない企業は、内部に見せにくい事情を抱えている可能性がある。
逆質問② 評価制度の具体性
「技術スキルの向上をどのように給与や役職に反映させていますか?具体的なMBO(目標管理)やOKRの事例はありますか?」
- 良い回答の例:資格取得手当、スキル評価表、直近の昇給実績を具体的に提示
- 悪い回答の例:「頑張りを見ています」「総合的に判断します」
「個人の成果で評価されない」という不満が転職理由の上位にある現在、この質問への回答は企業の成熟度を映しやすい。具体的な制度設計と実績を答えられない企業は、評価体制が実質機能していない可能性がある。
逆質問③ サポート体制の実効性
「客先で炎上案件が発生した際、会社としてエンジニアを撤退させた、あるいは増員交渉を行った実績はありますか?」
- 良い回答の例:具体的な撤退事例や、顧客との交渉経緯を共有
- 悪い回答の例:言葉を濁す、「大丈夫です」とだけ答える
SES企業で大事なのは、過酷な現場からエンジニアを守る姿勢の有無だ。この質問に対して具体的なエピソードを語れない企業は、エンジニアを「資材」のように扱っている可能性がある。
逆質問④ 教育制度の実効性
「資格取得支援制度があると伺いましたが、直近1年間での利用実績と、その資格を活かせる案件へのアサイン例を教えてください」
- 良い回答の例:実績数(例:「昨年15名が取得、うち10名が関連プロジェクトにアサイン」)、具体的な社員事例を共有
- 悪い回答の例:「制度はあるが実績はあまり…」
制度の存在と実績の乖離を確認する質問だ。制度を「カタログ」として持っているが活用されていない企業は少なくない。直近1年の実利用数を答えられるかが、リトマス紙になる。
回答を聞くときのポイント
4つの質問に共通するのは、「具体的に」「実績として」「直近」という3つのワードで絞り込むこと。抽象的な回答を許さない質問構造を作ることで、企業の本音が浮かび上がる。
回答が曖昧だったり、不快感を示したり、態度が変わる企業は要注意。これら4質問を投げるだけでも、実態の伴わない企業の多くは対応の歯切れの悪さから見分けがつきやすくなる。
面接は診察室である。受け身ではなく、自分から診断する意識で臨むことが、過酷な環境を回避する最後の関門になる。
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優良IT環境(ホワイト企業)の定量指標と実例
ブラックな環境の話ばかりを続けると、「IT業界全体がダメ」という印象を与えかねない。だが、それは違う。適切な環境を選択すれば、エンジニアは高い満足度と報酬を得られる。ここでは、ホワイト企業の定量指標と実例を提示する。
優良環境の共通指標
ホワイトIT企業を見分けるための定量的な基準は、「優しさ」ではなく「経営の健全性」に裏打ちされている。
- 平均残業時間:月20時間程度以下が一つの目安
- 有給休暇取得日数:年間15日以上
- 平均勤続年数:10年以上
- 3年以内離職率:一桁台
- 年間休日:125日以上
これらの指標を満たす企業は、高い技術力を背景に上流工程を担い、十分なマージンを確保できているため従業員に還元する余裕があることが多い。ブラック企業との根本的な違いは、経営モデルそのものにある。
国内主要IT企業の実データ(有価証券報告書・公式開示より)
以下は、大手・準大手のIT企業が有価証券報告書や公式サステナビリティ情報で開示している数値の例である。いずれも全社員平均の数字であり、エンジニア職に限った数字ではない点、また年度によって変動する点に注意してほしい。
| 企業名 | 指標 | 数値 | 出典・年度 |
|---|---|---|---|
| 野村総合研究所(NRI) | 平均年収 | 約1,321万円 | 2024年3月期 有報(全社平均) |
| ジャストシステム | 平均年収 | 約1,432万円 | 2025年3月期 有報(全社平均) |
| BIPROGY(旧日本ユニシス) | 平均勤続年数 | 20.8年 | 2024年3月期 有報(平均年収は約846万円) |
| NTT西日本 | 月平均残業/有休取得 | 約15.5時間/19.1日 | サステナビリティデータ集 2023年度 |
| 富士ソフト | 月平均残業/有休取得率 | 約23.9時間/約68.9% | 公式・有報 2023年度 |
野村総合研究所やジャストシステムのように平均年収が1,300万〜1,400万円台に達する企業もあれば、BIPROGYのように平均勤続年数が20年を超え、長期的にキャリアを築ける環境を持つ企業もある。一方で、大手であっても残業時間は月15〜24時間程度と幅があり、「大手=残業が極端に少ない」と単純化はできない。数字は企業ごと・年度ごとに確認する姿勢が重要だ。
なお、こうした企業別の労働データは各社の公式開示(有価証券報告書・サステナビリティ情報)で最新値を確認できる。まとめサイトの又聞きの数字ではなく、一次情報に当たる習慣をつけたい。
認定バッジで見分ける
企業の労働環境への投資を客観的に示す指標として、公的な認定制度がある。
- えるぼし認定(女性活躍推進)
- くるみん認定(子育てサポート)
- 健康経営優良法人(ホワイト500)
これらを取得している企業は、労働環境への投資が経営戦略の一部として組み込まれていることが多い。取得状況は各企業の採用ページや厚生労働省の公開情報で確認できる。
自社開発・上流工程・スタートアップの魅力
SES(客先常駐)に否定的な声が多い一方で、自社でサービスを開発・運用する「自社開発企業」や、要件定義から携わる「上流工程専門のSIer」は、エンジニアの満足度が高い傾向がある。自分が開発したプロダクトが顧客にどのような価値を与えているかを直接実感でき、ビジネス視点での成長も期待できる。
なお、未経験からIT業界に転身した人を対象とした民間の小規模アンケート(プログラミング教育メディアによる2024年の調査、回答約50名)では、回答者の78%が「転職して良かった」と答え、増収幅は「30〜50万円増」が最多だったと報告されている。標本数が少ない自主調査のため参考値だが、未経験転職者の一定数が前向きに評価している一例として挙げておく。
「やめとけ」と言われる業界の中にも、確実にホワイト環境は存在する。重要なのは、定量指標で選ぶ姿勢を持てるかどうかだ。
🚀 IT転職の生涯リターンを俯瞰するなら
ホワイト環境でのIT転職が生涯にどれだけのリターンをもたらすかは、異業種からIT転職、生涯賃金とQOLはどう変わる?で時間軸で把握できる。
ブラック環境から抜け出す・避けるための3つの盾
本記事で示したブラック回避の技術を、最終的な行動指針として「3つの盾」に集約する。
盾①:識別技術(求人票の読解)
- 求人票の危険信号5項目を毎回チェック
- 給与表記の内訳(固定残業代、不自然な高給)
- 年間休日数の記載
- 精神論ワードの乱用
- 具体スキル要件の欠如
- 写真のパターン
- 客観データ(離職率・勤続年数・商流)を必ず確認
- 具体性・透明性のない企業は候補から除外
この盾があれば、求人段階で多くのブラック企業を除外できる。
盾②:逆質問(面接の診察)
- 4つの逆質問テンプレートを準備
- 商流の内訳(多重下請け回避)
- 評価制度の具体性
- サポート体制の実効性
- 教育制度の実績
- 具体的な回答が返ってくるかで判断
- 「受け身の面接」から「診察する面接」へ
面接段階で、求人票だけでは見抜けなかった企業の実態も浮かび上がりやすくなる。
盾③:ホワイト指標(選ぶ基準)
- 定量指標:残業時間・有休取得・勤続年数・離職率
- 認定バッジ:えるぼし・くるみん・ホワイト500
- 商流:元請け比率、自社開発比率
この盾で、消去法ではなく積極的に「選ぶ」姿勢に変わる。
エージェント活用のすすめ
3つの盾を個人で運用するのは限界がある。そこで、ブラック回避に強みを持つエージェントや、IT特化型エージェント(レバテックキャリア等)の併用が有効だ。企業の内情を知っている第三者の視点は、個人では得られない情報源になる。
良質なエージェントは、社内の離職率・残業実態・社員の評価制度など、求人票には書かれていない情報を持っていることがある。3つの盾を自分の武器としながら、エージェントの情報で裏付けを取るのが、確度の高いブラック回避法だ。
まとめ|「やめとけ」と言わせない環境は確実に存在する
本記事の要点を、最後に振り返っておく。
「エンジニアやめとけ」という言葉は、感情論だけでなく構造的な問題の帰結でもあった。メンタル不調による休業・退職が産業別で最も多い水準にあること、多重下請けによる中間マージンの累積、評価制度への不信──これらはいずれも公的データや調査に裏付けられた、業界全体の課題である。その中核にあるのが多重下請け構造で、中間マージンによる低賃金、下流工程への固定によるスキルの陳腐化、1人常駐による孤立、偽装請負の法的リスクといった弊害は、個人の努力だけでは動かしにくい。
しかし、だからといって悲観する必要はない。BIPROGY(平均勤続20.8年)、野村総合研究所(平均年収約1,321万円)、ジャストシステム(同約1,432万円)のように、経営の健全性を背景にエンジニアへ十分に還元し、長く働ける企業は確実に存在する。問題は、そうした環境を主体的に選べるかどうかだ。本記事で示した3つの盾──求人票を読み解く識別技術、面接で使う逆質問、ホワイト企業を見分ける定量指標──を備えれば、ブラック回避は個人レベルで十分に実行できる。そしてその精度を高めるのが、内部情報を持つエージェントの第三者視点である。自分の目で診断し、エージェントの情報で裏を取る。この組み合わせが、確度の高い回避法になる。
「やめとけ」と言われる業界で、それでも前向きにキャリアを築くエンジニアは確実に存在する。彼らは構造を理解し、3つの盾を使いこなして、主体的に選んでいる。あなたも今日から、この業界の診察医になってほしい。
今日の第一歩は、今見ている求人票を本記事のチェックリストで再診断すること。それだけで、数ヶ月後の景色は変わってくる。
🎯 次の一歩を踏み出すなら
属性別のおすすめ動線:
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📌 参照した調査ポイント
- doda「転職理由ランキング」(2026年発表・2025年度集計・複数回答):給与1位36.6%、労働時間2位26.3%、成果評価3位22.8%。年代別は20代「労働時間」44.6%、30代「尊敬できる人がいない」23.0%、40代「社内の雰囲気」32.1%。※全職種対象でIT職限定ではない
- 厚生労働省「労働安全衛生調査(実態調査)」令和5年版:情報通信業のメンタル不調による連続1ヶ月以上休業者がいた事業所28.9%・退職者がいた事業所14.7%(いずれも産業別で最多、全産業平均は10.4%・6.4%)。メンタル不調者がいた事業所割合も情報通信業が32.4%で産業別最多。令和3年の退職者がいた事業所割合は11.7%。※いずれも事業所ベースの割合
- 日経xTECH/ITpro エンジニアメンタルヘルス調査(2007年・627名):61.4%が「こころの病」を感じた経験、28.2%が医師診断。※約20年前の調査であり現在の実態とは異なる可能性
- Upwork「Future of Work」レポート(2025年・主に米国対象):AI高度活用層の88%がバーンアウトを経験。※海外調査で日本の実態そのものではない
- 経済産業省「IT産業における下請の現状・課題」(2015年):元請と下請の賃金・生産性格差、多重下請け構造の継続を指摘
- 厚生労働省ガイドライン:実態が派遣である請負契約(偽装請負)は労働者派遣法上問題となる
- 企業別の労働データ(各社有価証券報告書・公式開示より、全社員平均・年度により変動):野村総合研究所 平均年収約1,321万円(2024年3月期)、ジャストシステム 平均年収約1,432万円(2025年3月期)、BIPROGY 平均勤続20.8年・平均年収約846万円(2024年3月期)、NTT西日本 月平均残業約15.5時間・有休19.1日(2023年度)、富士ソフト 月平均残業約23.9時間・有休取得率約68.9%(2023年度)。※東芝ITサービスの残業・休暇数値は一次資料で確認できなかったため本記事では扱わない
- 未経験IT転職の満足度:プログラミング教育メディアの自主アンケート(2024年・回答約50名)で78%が「転職して良かった」、増収は30〜50万円増が最多。※小規模な自主調査のため参考値

